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建築文化講演会

建築文化講演会2002 「最近作について」 講師:佐々木睦朗氏

2010年03月25日

建築文化講演会

最近作について
講師:佐々木陸朗氏

JIA三重は、去る2002年2月23日(土)午後1時30分より3時30分まで、三重県津市のアスト津4階のアストホールに、講師佐々木陸朗氏(建築構造家)を招いて「最近作について」の講演をしていただいた。
講演の様子主催は、JIA三重と(社)三重県建築士会。後援は(社)日本建築学会東海支部三重支所、(社)三重県建築士事務所協会。協賛は、INAX、三晃金属工業、三和シャッター工業、フジタ、三重不二、中部電力、合同ガス、元旦ビューティ工業、東芝産業機器システム、ジオトップ、丸栄陶業、三重コクヨ、石田鉄鋼(順不同)である。
JIA三重では、毎年この時期になるとメイン事業として建築文化講演会を開催している。例年は建築家にお願いしているが、今回は建築構造家ということでどのような講演になるのか楽しみであった。当日の天気は快晴で温暖な1日であった。会場には大学生から熟年層まで約150名が集まり、熱心に講演を聞いていた。
講演の様子講師の佐々木陸朗氏の経歴を紹介すると、1946年愛知県生まれ、70年名古屋大学大学院修士課程修了後、(株)木村俊彦構造設計事務所入社、80年佐々木陸朗構造計画研究所を設立され、91年第1回松井源吾賞を受賞99年に母校名古屋大学大学院工学研究科建築学専攻の教授に就任されている。
主な作品としては97年横浜市東永谷区センター・東永谷地域ケアプラザ(伊東豊雄・設計JV)、98年古河総合公園飲食施設(妹島和世+西沢立衛)、大田区休養村とうぶ(伊東豊雄)、グラスハウス(横河健、99年日本建築学会賞会員賞受賞)、99年飯田市小笠原資料館(妹島和世+西沢立衛)、2000年せんだいメディアテーク(伊東豊雄)、東京ウェルズテクニカルセンター(山本理顕)、札幌ドーム(原広司・設計JV)と多彩である。
佐々木氏は、80年代前半の丹下健三氏の活躍期からポストモダンの最盛期頃は多くの活動をしておられなかったが、80年代後半頃になると本格的に活動を開始された。三重県の美和ロック玉城工場第1期では、130メートル×90メートルの無柱空間の工場を設計された。鉄骨量を少なくするため柱を高くして大梁をタイロットで吊り、鉄骨量が60kg/m2の軽量の経済設計で、建築費を30万円/坪(構造は10万円/坪)のローコストで品格のある工場の構造設計をされた。構造合理主義である。
講演の様子講演会でギリシアのパルテノン神殿の映像が映しだされたとき、神殿の歴史、石造建築の合理的な構造、視覚矯正やプロポーションの重要性を説かれた。次に映された1929年のミース・ファン・デル・ローエのバルセロナ万博パビリオンの鉄骨軸組の柱、梁、床は、「フラットな空間構成」でモダニズムのエポックとして捉えられている。1882年から現在も建設中のアントニオ・ガウディのバルセロナのサグラダ・ファミリア教会の大空問は「形態の原理をつかみ、最小限の材料で最大の効率」をあげる合理性を集大成しようとした。象徴的なかたちのなかの構造は影の中に隠れていることを見いだしたのだ。最近、氏はガウディの論文を発表されている。
つづいて、大型プロジェクターから伊東豊雄氏の「せんだいメディアテーク」の圧倒的な形態が映し出された。95年3月から2年間の設計期間を経て2000年8月に竣工した話題の建築である。大きな佐々木睦朗氏の講演に、約150名が参加したチューブのような斜めのラチス柱、梁のないサンドウィッチ板のような50メートル×50メートルの床版、ダブルスキンのガラスのカーテンウォールなどなど。
佐々木氏の学生時代の研究はシェル構造の解析である。大きなチューブのような斜めのラチス柱はシリンダーからPHシェル構造を設計者の意のままねじったような美しい形態である。「力は最短距離を伝わる」という原理が経済的にまとめあげられている。
講演の様子とはいうものの実際は原寸の模型をいくつも制作された。実は制作過程における「鉄」の溶接の「歪」が大きな課題なのだ。造船の溶接技術が至るところに注入されている。
どんなものでも、一番最初につくること、創造するということは数多くの実験の試行錯誤なくしては不可能なのだ。
昨年、建築士会の全国(宮城)大会に参加して「せんだいメディアテーク」を見学したが、あの螺旋状の大きなチューブのような斜めのラチス柱と大きな床版、ダブルスキンのカーテンウォールに照明が当たり、夜景にストラクチャーが浮いたように映っているのが目に焼きついて、今でも忘れられない。

(芳賀信次/HAGA総合設計)