想像力の冒険
講師:北川原 温(建築家)
2004年2月11日(水・祝)
三重県総合文化センター多目的ホール
2月11日、建築文化講演会が三重県総合文化センターで開催されました。三重地域会の事業のひとつの柱となる事業であり、一般の方にも参加を呼びかけ、例年好評を得ています。早いもので今回で18回目を迎えました。
今年は、建築家であると共に東京芸術大学で教鞭を執られている北川原温氏を迎えての講演となりました。当日は150人近い参加があり、遠くは岐阜、石川から参加される熱心な方もみえました。
講演は、北川原氏の洗練されたイメージとは裏腹にサウジアラビアの土着の集落の調査のスライドから始まりました。日干し煉瓦で造られた8階建ての農家、外周から形成されていく集落の成り立ち等、氏がまだ学生の頃の調査ではありましたが、その解説は土着の文化を鋭く捉えると共に、ビジュアルなデザイン要素も巧みに抽出して分析をされておられました。
近作の紹介は、まずは「岐阜県立飛騨牛記念館」、「木の国サイト」、そして「岐阜県立森林文化アカデミー」等の木造の作品群から始まりました。間伐材を利用した面格子を構造として成立させながらデザインにまで昇華させていく手法は見事なものでした。
岐阜県立森林文化アカデミーでは、県産材の有効利用が求められたわけですが、8万本、実に3600m3の間伐材を使用されたとの事。貴重な森林資源のひとつである間伐材が面格子を採用する事によって有効に利用できたとの事でした。また、すでに敷地が建築計画とは全く関係なく土木工事で造成されはじめていたため、環境破壊を懸念して建築の範囲を超えて県と半年に及び調整に奔走されたとの事で、氏の建築家としての社会的責任感が強く感じられるエピソードでした。そして岐阜県立森林文化アカデミーの施設のひとつである森の情報センター展示ホールでは、丸太を使った軸組みを接点をずらして接合することにより、鋼板やボールジョイントを使わない樹状立体トラスを実現したことなど語られました。そこに現れた空間は、森を彷彿とさせる美しく印象深いものでした。
ビッグパレットふくしまでは、建築のコンセプトとして”水”をテーマにされたこと、そして近代的ではないものをイメージしたかったことなどを語られました。近代的なジェット機はジェット燃料で自然に逆らって無理をして飛んでいて好きではないが、モーター・グライダーには自然に逆らわない、機能からくる美しさがあるといったお話や、ヨットの帆は科学的に風を分析して作られた形であるがそれが結果的に美しいものになっているというお話は、氏のものづくりへの想いの一片を見た気がしました。
他にも昭和の森記念講演霧の森、ARIAなど意欲的な作品が多数紹介されました。
建築をまとめあげて行く上でのスペシャリストとのコラボレーションについても語られ、パートナーを非常に大切にされている様子がうかがい知れました。木構造家・稲山正弘氏とのやり取りの中で面格子や樹状立体トラスを採用されたこと、ビッグパレットふくしまでの世界的な技術者集団・オーブアラップアンドパートナーズとのやりとりの様子、そして大きいプロジェクトならではの苦労話などを聞くことが出来ました。
今回の講演のスライドは400点以上にも及ぶものでしたが、その中にデュシャンやフォンタナなど現代美術のスライドがかなり見られました。氏の東京芸術大学出身というプロフィールからすればそれほど驚く事ではないのかもしれませんが・・・。現代美術はその理念が大きい部分を占めますが、作品に対する解説が的確で非常にわかりやすく、新鮮な感動を覚えました。直接的な部分ではわかりませんが、現代美術という分野はおそらく、氏の作品に間接的に大きな影響を与えているのだろうと感じられました。氏のオランダのバレエ団NDTの舞台美術の仕事は、現代美術に通じるものでしょう。
最後に氏はゴーギャンの絵を写され、そのタイトルで講演を締めくくられました。この言葉は私にとっても非常に心に残るものとなりました。その言葉を紹介し終わりたいと思います。
『我々はどこから来たのか?我々は何者なのか?我々はどこへ行くのか?』
(中西 修一/shu建築設計事務所)
【プロフィール】
1951年長野県生まれ。東京芸術大学卒業。同大学院修了後、国内外で設計修業。1982年(株)北川原温建築都市研究所設立。現在東京芸術大学助教授。
主な作品にメトロサ(日本建築家協会新人賞)、アリア(グッドデザイン賞金賞、日本建築学会作品選奨)、不知火町立図書館美術館(日本図書館協会建築賞、日本建築学会作品選奨)、ビッグパレットふくしま(日本建築学会賞作品賞)、岐阜県森林文化アカデミー(日本建築学会賞技術賞、BCS賞、エコビルド賞、カナダグリーンデザイン賞)、木の国サイト(農林水産大臣賞)、皇居外苑休憩所など。その他、作品多数。また、オランダのバレエ団NDTの舞台美術をデザイン(ONE OF A KIND)し、ベッシー賞、ニジンスキー賞を受賞。
【主な著書】
現代建築/空間と方法7 北川原 温(同朋社1986)THE JAPAN ARCHITECT vol.8 /北川原温特集(新建築社刊 1992)
ARCHIGRAPH-2 /北川原温×稲越功一(TOTO出版 1993)CD-ROM /Into The Architect 北川原温 “失われた時を求めて”(ハートランド1995)