「東紀州の自然探訪」
今年のJIA三重は6月の支部大会以来、「自然、環境、森林」に大いに関心があり、2001年6月に森羅万象匠塾で一度訪れたことのある海山町「速水林業 大田賀山林」に、今回は一般の人も引き連れて、再びウオッチングすることになった。建築ウオッチングといえば建築を見に行くのだ、というのがあったようなのだけれども、今年は建築を飛びこえ、すなおに森や自然に関心が行くのは、このごろ近くにあまり見たいものがないことと、やはり時代の曲り角をJIAメンバーも意識しながらハンドルを切って進もうとしているのかなと思う。急に冷え込んだ11月22日朝、松阪駅に集合した参加者は皆、あったかそうな格好をしてあらわれたが、ぼくだけがうかつにも秋口のような軽装で集合してしまった。しかし、バスの中はもとより、海山町はさすがは紀州、ぜんぜん寒くなんかなく、速水さんの美しい森の中を歩いた後は、軽く汗がでるようなくらいであった。
「速水林業 大田賀山林」はちょうど、紅葉の時期を迎え、普通の人工林では残されないという広葉樹がきれいに色付いていた。真っ黄色に染まったイチョウの落ち葉を踏みしめ、45m/haという充実した林道(日本の平均10m/ha)をすすむ途中、ときどき足をとめて速水氏の解説が入る。「ほら、この木の下には下草が生えず雨で流れて石がむき出しでしょう。広葉樹は針葉樹に比べ高等なので、落とす実の中に他の植物を寄せつけない成分があるのです。」見事に手の入れられた90年生から100年生以上の桧の針葉樹林の下はシダなどの下草がきれいに生えそろい、そのまた下には黒ぐろとしたフカフカの土がじわっと水分を溜め込んでいる。「手を加えられた人工林が保水力を高めているのです。」目の前でこれを見ながら、速水氏のメチャ分かりやすい解説を聞けば納得。ぼくは理科年表で調べたことがあるのだけれども、世界で一番雨が降るところは屋久島と尾鷲で、その年間降雨量は5000ミリを超える。つまり5メートル以上の雨が降る。当然湿度も世界一なのだ。そんな環境のまっただ中に位置するのが速水林業の山林で、そのほとんどは傾斜度30°をこえる「前の人のかかとで顔を打つ」くらいの急斜面だという。もし、この人工林を枝打ちや間伐をせず放置してしまえば、うっそうとした暗い森になるのはあっという間であろう。年間5メートルもの雨が鉄砲水となり川下の村を襲い、この地域での人の暮らしは非常に危険でままならぬものになるに違いない。江戸時代から続く速水の森はこの地域での人の暮らしと表裏一体となっていたのだと思う。
世界の材木の10%から20%が日本に輸入され、その内の20%が違法伐採だと言う。日本の商社は世界中で、森と表裏一体となっていた現地の人々の暮らしや命までをも脅かしている。「違法伐採の木を知らずに使うということは、世界のどこかでもしかすると死と隣り合わせになっている人がいる。この木はどこでどのように伐られた木か?と問うて使うのが建築家の使命」という速水氏の解説を聞いて、はじめてハッとしてしまった。
気持ちのよい森林浴にみんな時間を忘れてしまい、予定を1時間以上オーバーして、速水林業を後にした一行は、尾鷲市内で新鮮な刺身をいただき、市内散策、土井子供くらし館、土井竹林を見学。お魚市場で美味しそうな干物などお土産を買たり、おじさま方は並んでアイスをほおばったりしたあと、バスに乗り込み連休前でか渋滞になってしまった42号線をまたまた1時間以上予定オーバーして松阪に到着した。
その後、メンバーは松阪市内の松阪肉しゃぶしゃぶのお店で懇親会。名古屋から参加してくれたO氏は松阪肉の焼肉でなく、しゃぶしゃぶだったことを最初、残念がっていたが、非常に美味なしゃぶしゃぶであったので、たぶん満足していただけたかと思う。